外航貨物海上保険は英国保険市場において作成された協会貨物約款(Institute Cargo Clauses) に規定されている(A)条件、(B)条件、(C)条件の3種類があり、中古車輸出の場合は (C)条件の海上保険をかけることが一般的だ。(C)条件は、補償される事故の範囲が狭い分、保険料率が低く最低限のリスクをカバーすることができる保険で、船の火災や沈没による車両の全損事故や船の座礁などの海難事故で共同海損が宣言された場合の共同海損分担金の支払いなどが補償の対象だ。共同海損とは、海難事故など航行中に生じた損害または費用を船主および荷主で分担し合うという制度で、船主が「共同海損」を宣言すると貨物の被救助価額で按分された金額の共同海損分担金が荷主に請求され、海上保険をかけていない場合はこの費用を実費負担することになる。そして、分担金の支払いをしない限り貨物の引渡しはされない。自社の貨物が海難事故に巻き込まれると、こちらが被害者で船会社に何かしら補償をしてもらいたいという気持ちになるが、そうではないということを理解しておくべきだろう。
中古車輸出では貨物が中古品という性質上、貨物のキズやへこみなどの破損を補償する (A)条件の保険をかけることは基本的には難しいが、スリランカやバングラディシュなどL/Cで代金の決済をする場合はL/Cで提出を求める書類の項目で(A)条件の海上保険証券を指定されることがある。この場合は、(A)条件の海上保険証券を銀行に提出しないと書類不備となってしまうため、保険会社と協議をして(A)条件の海上保険証券を発行してもらうこととなる。また、シンガポールやタイなどほぼ新車といえる登録済み未使用車を輸出する場合は (A)条件の保険をかけることが可能な場合がある。これは保険会社によって対応が違うため、取引をしている保険会社と相談する必要があるだろう。また、破損や盗難の保険処理は、輸出先国で貨物の引渡しを受けてから14日以内にClaim Noticeを船会社に提出して、それに対する回答を書面で受けておく必要があるため注意が必要だ。万が一に備えて、保険処理の手順についても保険会社に確認しておいたほうがいいだろう。
海上保険の費用の計算方法は「CIF価格 x 110% x 保険料率」で計算できる。たとえばCIF価格が100万円の車両を輸出して保険料率が0.5%の場合は、5,500円 (1,000,000円 x 1.1 x 0.005 = 5,500円)が保険料となる。ほとんどの保険会社で海上保険の最低料金を3,000円と設定しているため、計算した金額が3,000円未満の場合は3,000円が保険料となる。
【海上保険の種類と補償内容】
事故の種類 | 保険条件 | ||
ICC (A) | ICC (B) | ICC (C) | |
火災・爆発 | O | O | O |
船舶または艀の座礁 | O | O | O |
陸上輸送用具の転覆・脱線 | O | O | O |
船舶・艀・輸送用具の水以外の他物との衝突・接触 | O | O | O |
避難港における貨物の荷卸 | O | O | O |
共同海損 | O | O | O |
投荷 | O | O | O |
波ざらい | O | O | X |
地震・噴火・雷 | O | O | X |
積込・荷卸の際の水没または落下による梱包1個毎の全損 | O | O | X |
海・湖・河川の水の輸送用具・保管場所等への侵入 | O | O | X |
あらゆる人または人々の悪意のある行為(不法行為) | O | X | X |
雨・雪等による濡れ | O | X | X |
海賊行為 | O | X | X |
その他の偶発的な損害(破損、盗難など) | O | X | X |
*上記は協会貨物約款(Institute Cargo Clauses)による一般的な補償内容で、保険会社と交渉して特約をつけることで補償される内容を追加することが可能な場合がある。
中古車の輸出では、車両の年式による輸入規制を設けている国がありますが、年式規制に加えて輸出前の検査を義務付けている国もあります。これらの国では検査による証明書なしでは中古車を輸入することができませんので、船積み前に輸出検査を受ける必要があります。スリランカ、バングラディシュ、モーリシャス、タンザニア向けに輸出される中古車はJAAI検査、モザンビーク向けに輸出される中古車はINTERTEK検査、ニュージーランド向けに輸出される中古車はMAF検査、マルタ向けに輸出される中古車はVCA検査を受けることが義務付けられています。
検査会社 | 対象国 |
BUREAU VERITAS | スリランカ、モーリシャス |
EAA | タンザニア、ウガンダ |
INTERTEK | モザンビーク |
JAAI | スリランカ、モーリシャス、タンザニア、バングラディシュ |
JEVIC | フィジー、パプアニューギニア、モーリシャス |
MAF | ニュージーランド |
QISJ | ケニア |
VCA | マルタ |
中古車輸出のビジネスにおいては、車の販売方法や仕入のやり方はいろいろとあり、そこが各企業のノウハウであったり、差別化の要因であったりするわけですが、どんなやりかたをするにしても共通する5つの作業項目があるように思います。その5つの項目とは、①売買契約、②船積み手配、③代金回収、④船荷証券(B/L)の発送、⑤自動車リサイクル料の還付申請です。輸出する国によっては輸出検査が必要であったり、支払い条件がL/Cであったりするので、追加の作業が入ってきますが、基本的な作業の流れはこのようになるのではないでしょうか。
①売買契約
中古車の販売価格、輸出の条件を決めます。FOB、CFR(C&F)、CIFなど取引の条件を決めて販売価格を提示します。支払いの条件は各企業の考え方やお客との関係によりますが、手付金をもらって、船積後に残金を受け取るケースが多いように思います。代金回収のリスクを回避したいなら船積み前に全額前金での支払いを条件にするのがベストですが、他の企業との競争もありますので条件を厳しくすると商談がまとまりにくくなるかもしれません。
②船積み手配
売買契約が成立したら、船積みの手配をします。船会社へ輸送スペースのBookingをし、輸出通関の手配をします。船積みが終わったら、船会社からB/Lを、通関業者からは輸出許可通知書を受け取ります。
③代金回収
船積みが終わったら、その旨をバイヤーに伝えて、車両の残金の支払いの請求をします。
④船荷証券(B/L)の発送
代金の回収を終えたら、船荷証券(B/L)を発送して、車両の所有権をバイヤーに引渡しします。この際、CIF条件で販売している場合は海上保険証券も発送します。輸出抹消及びその英文翻訳を必要とする国もありますので、必要な書類はB/Lの発送時にすべて送ります。また、香港など近場の国は船がすぐについてしまいますので、B/Lを発送せずにサレンダー(元地回収)にする場合もあります。
⑤自動車リサイクル料の還付
中古車の船積みが完了したら、自動車リサイクル輸出返還事務センターに申請をして、自動車リサイクル料の還付を受けます。還付に必要な書類は①B/Lのコピー、②輸出抹消のコピー、③輸出許可通知書のコピーの3点です。
【問い合わせ先】
自動車リサイクル輸出返還事務センター
TEL:0570-064-860
中古車輸出の代金決済は銀行経由のT/T(Telegraphic Transpher)による送金が一般的です。スリランカ、バングラディシュなどの国ではL/C(Letter of Credit)による代金決済となりますので、L/Cの指示にしたがって書類を作成して銀行に提出し、代金の支払いを受けます。また、部品代や代金の不足分の送金など小額の送金を受け取る場合、Western Union、MoneyGramまたはPaypalによる送金方法もあります。
T/T(Telegraphic Transfer)
T/Tとは銀行のを経由して電信で送金する方法で、一般的な送金の方法です。送金側、受取り側の双方で銀行の手数料が発生します。受取り側の銀行手数料は銀行との契約によりますが、最低でも2500円~4000円/件の手数料が発生します。そして手数料は送金される金額に応じて高くなります。また、バイヤーが送金を依頼した海外の銀行と日本でお金を受け取る銀行との間にコルレス契約がないと、別の銀行を経由させてお金が届くので、経由銀行の手数料が別途発生する場合があります。したがって、余計なコストがなるべく発生しないように海外にネットワークのある大手銀行(三菱東京UF銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など)を受け取り銀行として指定しておくのがベターでしょう。
L/C (Letter of Credit)
L/Cとは輸入者の依頼で輸入者の依頼で輸入者側の銀行が発行する荷為替信用状のことで、輸入者側の銀行が輸入者の支払いを確約する仕組みです。L/C決済ではL/Cに指示された書類を指示された内容どおりに作成して、中古車の船積み後に日本側の銀行に提出します。そして日本の銀行から海外の輸入者側の銀行に書類が送られ、内容に不備がなければ代金の支払いがされることになります。もし不備があればDiscrepancyとの連絡がきて、Discrepancyの手数料が別途課されることになります。B/L、Invoice、原産地証明などL/Cに指定された書類は信用状統一規則 UCP600にのっとって作成される必要がありますので、こちらの内容もあわせて確認しておかれるとよいでしょう。
Wester Union / MoneyGram
Western Union、MoneyGramは個人対個人の送金サービスで、小額の送金では銀行のT/Tより送金手数料が安いです。手数料は送金する側のみに課され、受け取り側が支払う手数料はなく額面どおりの金額を受け取ることができます。ただ企業あてには送金できませんので、個人名義で送金をさせて、受け取りの名義人となった本人がWestern UnionまたはMoneyGramのエージェントの窓口にお金の受け取りに行くことになります。
Paypal
Paypalはオンラインショッピングでの決済を簡単にするためにアメリカで開発された仕組みで、Paypalのアカウントを開設すればネット上で簡単に送金や代金の受取りができます。手数料は送金する際には発生しませんが、お金を受け取る場合は送金額の4~5%程度の手数料が発生します。小額の送金の場合はT/Tの手数料より安く済みますので、状況に応じて使い分けすると便利かもしれません。